2017年1月14日 9:44 CAT :
       

「黄金郷」について長々と書いてみた

犬神サアカス團の新譜「黄金郷」。

近年にないほど、評価の難しいアルバムだと思いつつ、結構聴きこんでみた。

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・・・でも、まだ分からない。

オレの方が変わってしまったのかと思い、「ここから何かが始まる」を聴いてみた。「恐山」を聴いてみた。「玉椿姫」を聴いてみた。「不確定原理」を聴いてみた。

以前と同じ感想だ。

とすれば、この「黄金郷」と言う作品をどう評価したら良いんだろうか。

うむむむ・・・

と言う事で、ここはひとつ原点回帰。

昔のように1曲ごとにレビューをかきつつ、作品全体に見え隠れするモノを探り当てて行こうとか、そんな事をふと思った次第でございます。

 

 

○命ある限り
いつもの(と言っていいのやら・・・)アルバムの最初の1曲目。ただ、今回についてはどちらかと言えば、原住民族の音楽のようなイメージ。近いものとしては、「残酷暗黒劇場」の1曲目か。「首を刈れ~」のやつね。多分、「黄金郷」の場所自体が、日本ではなく、どこかの秘境と言うイメージなんだろう。

○病葉
「びょうよう」ではなく、「わくらば」と読む。言葉自体は何となく知ってたけど、どんな意味か・・・と言うと、「病気や害虫にむしばまれて変色した葉。特に、夏の青葉にまじって赤や黄に変色している葉」の事だそうで・・・う~む。曲自体の構成は、「ここから何かが始まる」あたりから顕著になってきた凄まじい数のメロディーなどからなるプチプログレ。こういう構成の曲は、何度聴いても好きなんだよな。ただ、ここでも何となく曲全体の根底に流れる秘境のようなイメージ。曲としては、全然そんなメロディーじゃないんだけど、実に不思議で癖になる感じ。

○パンデモニアム
ここで一転して、キャッチな曲。タイトルの「パンデモニアム」は、悪魔の巣窟となる場所の事。命ある限り歌い続ける事で「黄金郷」を探し続けているサアカス團が、辿りついた場所は「黄金郷」かと思いきや、実は、悪魔の巣窟だった。ここじゃあない。引き返すなら今のうちだとそそのかされる。でも、その曲は、とてもキャッチで、分かりやすい。・・・と、そう言う事なんだろう。

○サキュバス
さらにキャッチで、このアルバム唯一と言ってもいいの縦ノリ全開の曲(「生存狂騒曲」もある意味、縦ノリだけれども)。「残酷パラダイス」を彷彿とさせるようなリフから始まる絶対ライブで盛り上がるだろう曲。サキュバス。まぁ、女の悪魔ですよね。それはいったい誰なのか?「パンデモニアム」が悪魔の巣窟なんだから、そこにたどり着いてしまった人間の女が悪魔の子を宿し、自分の存在自体を忘れ去り、悪魔となってしまう。「憂いのサキュバス」と言う事か。・・・何となく、「黄金郷」と言うキーワードから離れてきているような気がするのは見なかった事にしよう。

○骨壷
一転して、8分30秒もある大曲。個人的には、このアルバムの中で一番好きな曲。悲哀に満ちつつも、その根底に狂気が流れている。ポエトリーディングから曲に繋がると言う犬神サアカス團の真骨頂とも言うべき構成。パッと聴いた感じは「夕焼け」のようなイメージかと思いきや、メロディーに入ってからも、このアルバムで随一のキレイな旋律が本当に名曲だと思う。ただ、ここにきて、もう完全に「黄金郷」はいなくなってしまったような気がする・・・

○樹海
更にもう一曲、美しい旋律のバラードが続く。「骨壷」が犬神版「竹田の子守唄」なら、「樹海」は「サーカスの人魚」だと言うと、分かり良いと思う。曲としては、とても良い曲。ここまで暗い曲が多かった中で、一番悲しい歌詞なのに、メジャーコードがメインになる辺りが、ホント脱帽もの。だけれども、「黄金郷」は・・・とは言え、少々強引に解釈すれば、憂いのサキュバスと化した後、絶望し、もう死んでも良いと言う心情となったと考えれば、繋がらなくもない。死こそ救い・・・かと思いきや、死んでも苦しみは消えはしないとか、救いがあまりにもなさすぎるけれども・・・

○死に行く日
ここで本筋に戻るかのように、「サキュバス」までの流れを汲むような1曲。「骨壷」「樹海」が心理部分なら、ここで実際に行動を起こすのだろうて。だからこそ、曲のイメージも流れに戻した。と言った感じでしょうか。そして、この曲が、PVを作られてるんだよね。「ここから何かが始まる」における「黒い花が嗤う」がこの曲と言う事。このPVを見て初めて分かるんだけど、ここまでのイメージから「黄金郷」は何となく秘境的な所かと思ってたけれども、実は、旅していた場所は、何でもない当たり前の日常だったらしい。当たり前の日常が、悪魔がたくさんいる場所であり、そこで、悪魔の子どもを宿し、骨壷に入ろうとして、樹海に向かい、そして死に行く日・・・そう言う事か。うむむむ。

○ケガレ
とっても犬神サアカス團らしい曲。ホントに、大体どのフルアルバムの7~9曲目に入ってるらしい曲。さて、この嘲笑される「ケガレ」とは誰を指すのか・・・

○静かの地へ
少し重い編曲のミディアムナンバー。具体的な「黄金郷」のイメージ・・・かどうかは知らないけれども、絶望の彼方にある世界とかそんな感じか。何となく聴いてて「神の犬」を思い出したよ。絶望の果てにたどりついたその世界は、誰もいない静かの地だったと。

○失楽園
単純に意味だけを言うのであれば「禁断の果実」に手を出した為に、楽園を追われていくと言う、まぁ、聖書の物語ですよね。これをどう取るべきなのか。例えば、「静かの地」には何もなく、その退屈さに孤独が目を覚まし、そして、再び現世に戻された。とか。逆に、「静かの地」に行った時、死ぬ事も出来ないまま、一人何もせず生きて行くうちに、実は、現世こそ楽園だったと言う事に気が付いた。とか。色々考えさせられるような気もする。

○虎の威を借る狐
すこしアップテンポに「皆キチガイだ~」って歌ってる。完全に、メジャーシーンでは発表されなかっただろう曲だと思う。でも、こう言う曲を出せるからインディーズで活動している訳で、もっともっとこんな曲を聴きたいです。このキチガイって誰なんだろうね。ここへきて、何となく「恐山」の前半の曲のようなストレートなメッセージソングが出てきた気がする。

○生存狂騒曲
絶望して、死にたい死にたい言ってたんじゃねえのかよ!!?と、多分ほとんどのリスナーさんが心のそこで感じてると思う。結局、なんだかんだ言いながら、いざ死ぬとなった時には、「やっぱり死にたくないよ~」って。そんなもんだよね。で・・・この旅の終着点は、どこなんだろう。現時点では、結構迷走しているように思うんだけれども。

○エルドラード
「黄金郷」って言う意味ですよね。このアルバムで「骨壷」と「エルドラード」の2曲はホント好き。「エルドラード」を聴いてると「兄の病の特効薬は死臭漂う血の池地獄のような人肉スープの形而上学」を思い出す。美しいメロディーが延々と少ないのになぜか密度の濃い編曲と共に何度も何度も繰り返される。ただ、「兄の病の特効薬は死臭漂う血の池地獄のような人肉スープの形而上学」と違うのは、後半で実にドラマチックな構成に変貌すると言う事だと思う。そして、最後は、壮大な編曲に合わせて、前半で流れた美しいメロディーへと回帰する。結局、黄金郷は見つからなかった。どんなに、足掻いても、探しても、絶望しても、死のうとしても、死にきれなくても・・・そして、生きている限りこの旅は果てしなく終わりはない。いつまでも黄金郷を探し続ける。「この歌はのろい唄」「キチガイの子守唄」。声が出る限り終わりなく・・・

 

 

・・・ふう。久々に長々と書いた。

結局、1曲毎のクオリティーはとても高い。やっぱり名盤だと思う。じゃあ、何でアルバムとして評価が難しかったのか・・・コンセプトアルバムとして考えるなら「神の犬」のように、結末まで全てが欲しかっただろし、1つの作品としてみた時には「ここから何かが始まる」や「恐山」のようなまとまりにも少し欠けたのも知れない。

ただ、ここにきてこれ、実は犬神サアカス團結成からこれまでの経緯を暗示してる様に思えてきた。

「黄金郷」を求めて旅を始めた「サアカス團」は、悪魔の住処にも飛び込み、絶望し、死にかけ、それでも死にたくないと足掻く。

そして、決意する。

「この声が出る限り、生きている限り、黄金郷を探して旅を続ける」と。

そう考えた時、実にすばらしいアルバムのような気がしてきた。

このアルバムは、きっと「犬神サアカス團」がこれからも旅を続けると言う強い決意を表明したアルバムなんだ。

評価が難しかった理由は、「犬神サアカス團」と言うバンド自体の評価が一言で表せないからだったんだろう。

その決意の先にあるモノが何なのか、次回作を楽しみにしておりますです。

せっかくなので、「死に行く日」のPVでも貼っておきますか。

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