- 2023年12月14日 12:13 CAT :
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彼は世に類もあらぬ厭人病者であった
日本には元々「恋愛」と言う言葉が無かった。
恋愛と言う概念が初めて日本で初めて認識されたのは明治時代に入ってかららしい。
近代日本文学の大家「夏目漱石」が、海外の小説を翻訳する時「I love you」を「月が綺麗ですね」と訳すように指示したと言う話が、嘘か真か伝わっている。
真偽は置いておいたとして、このニュアンス自体は日本人なら凄く良く分かると思う。
夏目漱石はさすがにセンスがあるな。とも思うんだけど、それ以前に、日本の文化として「君が好きだあああ」と言う感覚自体があまり存在しないんだろう。
日本人にとって、「愛」と言うものは凄くなじみが薄い。
と言うか、ピント来てる奴なんて実際に存在してるんだろうか?
でも、「愛情」と言われると、意外としっくり芯を食う事が出来るような気がする。
色んな本を読む。
マンガばっかり読んでる訳じゃあないんですよ。
その中で、この上記のようなキレイな日本語が最近めっちゃ減ってきてる気がしてならない。
これは文法の話をしてる訳ではない。
文法で言えば、「君を愛しているんだ」と言う事も「月が綺麗ですね」と言う事もどちらも間違っていない。
でも、美しい日本語の流れと言う意味で考えれば「月が綺麗ですね」の方が圧倒的に当てはまる。
そう言う話。
オレが、これまでに読んできた全ての小説の中で最も心を打たれたのは江戸川乱歩の「蟲」だと言う事は、このブログでも何度も書いてきた。
もうパブリックドメインになってるので、気にしないでここでチョッとだけ引用(↓)。
醜く朽ちてしまった木下芙蓉を前にどうする事も出来なくなって、ふらふらと街に出た柾木愛造の行動を描いた「蟲」の中でもオレが一番好きな一節。
どこをどれ程歩いたのか、彼には少しも分らなんだけれど、三十分も歩き続けた頃、余りに心の内側ばかりを見つめていたので、つい爪先がお留守になり、小さな石につまずいて、彼はバッタリ倒れてしまった。痛みなどは感じもしなかったが、その時ふと彼の心に奇妙な変化が起った。彼は立上る代りに、一層身を低く土の上に這いつくばって、誰にともなく、非常に叮嚀なおじぎをした。
社会から断絶した生活の中、心の中では自らの行いを悔いつつも、それを表立って表現する事さえできなかった柾木愛造のこの行動。
どうしようもない深い哀愁。
オレが最も美しいと思う「ものの哀れ」とも言うべき情景がありありと伝わる。
この一節だけでオレの涙腺は緩くなってしまうんだ。
日本語には、世界のどの言語にもない奥深さと情緒がある。
それを知るべきだと思う。
この浅野忠信版の映画もなかなかいい味出してるよ。
娘が少し前に学校の授業で百人一首のお勉強をしてた。
持統天皇の有名は歌「春過ぎて 夏来にけらし 白たへの 衣干すてふ 天の香具山」とかも、ホント美しい日本語だよね。
ちなみにオレが一番好きなのは「君がため 春の野に出でて 若菜つむ わが衣手に 雪はふりつつ」。
調べたら光孝天皇の歌だった。
正に平安時代の「I love you」だわ。
皆様、美しい文章を読みましょうね。
この方が光孝天皇だそうです。
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