2025年6月6日 12:12 CAT :
       

僕はあの頃の君でいてくれることが何よりもうれしいんだ~後編

前回のあらすじ!

と言う事で、引き続き「ハーメルンのバイオリン弾き」の感想を書いていきましょうね。

昨日の記事では、ちょっと気になった点を書いていったので、今日は逆に良かった点を書いていくよ。

 

 

【作りこまれた物語】
1巻辺りでは、「ヨーロッパでの話」と実際の地名を出してたりしてるけど、2巻の最後に収録されている第8話「北の都」の「北の都ハーメルン」が出てきたり、魔界軍王が出てきた辺りでは、しっかりとした世界観と物語の展開が出来上がってたと思う。

それがかなりしっかり作りこまれていて、ほぼほぼ矛盾や破綻が無いまま物語が最後までキレイに進行している。

これだけのスケールの物語の世界観をしっかりと構築した上で、破綻させずにちゃんと完結していると言う意味では、やっぱり稀有な名作なのは間違いない。

至る所に時代を感じる痛い表現や、キツい表現などはあるとしても、それであっても、今に至るまでここまでキレイに広げた風呂敷をたたみ切った物語はほぼないんじゃかな。

 

 

【圧倒的残酷さ】
絶望の表現がスゴイ。と思ってたんだけど、実際読んでみるとそこまで絶望の表現は凄くなかった。

と言うか、ここ最近の漫画で絶望がインフレし過ぎてる。

確かに30年前ではトップクラスだったかもしれないけど、今の時代にはもっとどうしようもない絶望が沢山ある。

オル・ゴール編やヴォーカル編辺りは絶望感凄かったと思ってたんだけど、今回読んでて「あれ?こんなあっさりしてたっけ?」となってしまった。

濃い味付けの漫画を読み過ぎていたようです。

ただ「残酷さ」と言う意味では、今の時代でもなかなかお目にかかれない圧倒的なものがあった。

ヴォーカル編でスコア国でハーメル達に対して「ありがとう」と言って花をあげた少女がいた。

悪魔として忌み嫌われていたハーメル達が初めて認められ、そして、人々からの歓迎を受けたスコア国。

ハーメルのパーティーにおいてほぼ初めての明るい展開だよ。

でも、数話後にその少女に対してヴォーカルが「僕にも花をくれるかな」と寄っていく。

そして次の話では、スコア国の全ての人間が惨殺され死体が山積みになっているシーン見開きがこれでもかと描写されてた。

他にも、自分の両親の躯がオル・ゴールと踊っているところをトロンに見せつけるシーン。

ハーメルンで感情をなくした人間が殺されて行くシーン。

などなど、挙げるとキリがない。

中でも特に今回震えるほど良かったのは、リュートがベース達になぶられて殺されるシーン。

手をへし折られて、喉を潰されて、膝まづかれた状態で、両眼を切り裂かれるとか、こんな残酷なシーンは描けないって。

しかも殺される理由が妹を守るためで、それが母親の見ている前で行われる。

普通ならブレーキ踏むよな。と言う所で、ベタ踏みアクセルを踏むかのような残酷描写は、ホント凄かった。

ただ惨いとか、胸糞悪いとかじゃなくて、しっかり残酷。

これは、ホント途轍もない表現だった。

 

 

【超絶カタルシス】
上記の「残酷」が物凄いからこそ成り立つ超絶的なカタルシスがもう途轍もない。

絶望的な状態から勝利すると言う形のカタルシスは、いつの時代でも山のように溢れているけど、残酷的な状態に打ちひしがれたパーティーがそれでも立ち上がると言うカタルシス。

これは意外とあるようでなかったと思う。

例えば、ハンターハンターの蟻編で、ネフェルピトーが出てきた時の絶望感は凄かったけど、その後のカイトを殺すシーンの残酷さはほぼ描かれなかった。

ゴンさんがピトーを倒すシーンでは絶望からの勝利と言う形でのカタルシスはあった。

でもそれはやっぱり、あくまでもありふれて居る絶望から立ち上がる少年誌的なカタルシスなんだよ。

もちろん、あのシーンの表現自体は圧倒的名シーンで、実際ゴンさんになるところは何度読んでも鳥肌ものなのは間違いない。。

その上で考えて欲しい。

もし、あのシーンがゴンの目の前で少しずつ甚振られながらカイトが惨殺されて行く描写だったとしたら。

しかも、それはゴンを守るために。

それを目に焼き付けてしまい、精神が崩壊したゴンが、それでも立ち上がり、ピトーを倒すと言う展開だったらどうか。

このレベルのカタルシスですよ。

それが全編に渡って何度も繰り返される。

「この世界は残酷だ」的な表現は多々あれど、実際にどのくらい残酷なのかを丁寧に描写するマンガって意外と少ないんだよ。

 

 

【主人公パーティーの歪さ】
主人公が魔王の息子と言う設定自体は、今ではよくあるような気がする。

でもこの物語のパーティーは、チョッとおかしい。

魔王の息子ハーメル、人身売買されて連れてこられたフルート、ハーメルを聖杯にするためパンドラに近づいたオーボウ、自分の両親をハーメルに殺されたライエル、自分の国をサイザーに滅ぼされたトロン、双子なのに魔族に連れ去られて人間を惨殺していたサイザー。

どんなパーティーやねん。

しかも、自分の両親を殺されたライエルやトロンが、ハーメル、サイザーを許して仲間に迎えるまでの過程もなかなか見ごたえがある。

その結果、物語の終盤でこんなメチャクチャなパーティーがいつの間にか強い絆で結ばれていても、全く違和感がないんだよね。

ついでに言うと、それぞれのキャラクターの過去の話をしっかりと描いてくれている点もメチャクチャ良かった。

普通に考えると、大魔王ケストラーが人間の娘パンドラとの間に子どもを作るとか、設定では描けるとしても、その過程ってメッチャ難しい。

その辺りを本当に違和感なく描いていたからこそ、この歪なパーティーが正当化されるんだよな。

展開に全く無理がない。

これって、メチャクチャ凄い事だって。まぢで。まぢで。

 

 

【描写力がずば抜けてる】
長くなってきたから、これで最後。

とにかく描写力がずば抜けてた。

昨日の記事でもあった通り絵柄は古臭いんだよ。

でも奇形レベルで大きすぎる目にちゃんと感情が乗っているから、キャラクターの苦しみや喜びに物凄く感情移入できる。

しかも、画面構成が上手いから、スケール感とか世界観が物凄く分かり易い。

普通あれだけキャラクターやら、兵器やらを描き込むと、ごちゃごちゃしてしまって最近のワンピースみたいになってしまうと思う。

実際に、物語の序盤は分かりにくかった。

2巻の最後の方とかでも、物凄いモンスターがいるんだどうけど、イマイチスケール感が伝わってこなかった。

所が、渡辺先生はこの描写の為に敢えて引き算をしたんだよね。

後半になると、スケール感を出す見開きとかのページを線画だけで表現するようになる。

その結果、物凄い物量の線がページ内に存在することになり、見たこともないようなとんでもないスケール感を描写することが出来た。

普通は黒く塗ったりしたくなるよ。

それをしないで、ひたすら物量でスケールを出すと言う面と向かって立ち向かっていく男らしい表現方法にはただただ脱帽。

物量が必要になるから敢えて引き算をすると言う、このセンスは本当に凄すぎる。

それを見るだけでもこの漫画を読む価値はあるってもんですよ。

 

 

あと、プリスカ先生からいただいてた質問もせっかくなので、ここで書いておこう。

〇好きなキャラ
今回読んでて、オリンじじぃがメッチャ好きになってしまった。
オリンじじぃを追ってきた借金取りも良い感じ。
ドラム様みたいな己惚れ屋のおっさんも大好き。
あと、フルートのお父さんも好き。
やっぱりおっさんが好きらしいな。

〇好きな展開
これは(↑)の通り、リュートの過去編かと。
オル・ゴール編がぞくぞくして最高だった。

〇好きな必殺技(演奏曲)
やっぱり最期の戦い。
ヴェートーベンの第九「歓喜の歌」かなぁ・・・この辺り読んでた時なんて鳥肌立ちぱなっしですぜ。
あと、「火刑台上のジャンヌ・ダルク」の残酷な感じも捨てがたい。
普通に曲として好きなのは「魔王」なんだけどなぁ~

〇好きな舞台
これも(↑)の理由でスコア国編かな。
あと、絶望の大陸「エアシュテルベント」も上陸時の絶望感もいい感じ。

〇きらいなキャラ
嫌いなキャラは特にいないけど、性格が屈折してるので、ライエルとかサイザーみたいな真っ直ぐなキャラは苦手。
でもライエルの両親くらいになってくると、逆に好きになるのが不思議な感じですな。

 

 

そんな感じで、長々と書いてしまったけど、結論を書いておこうか。

絵が古臭いし、時代に合わないイタイ表現が多い。

でも、そんな事どうでも良くなるレベルでクソクソ面白い漫画だった。

やっぱり「ハーメルンのバイオリン弾き」は人生のトップ5に入る漫画で良いと思う。

絵柄が受け付けないとかいう奴は、その変なフィルターのせいで勿体ない思いをすればいいんだ。

未読のやつは、ぜひ読むべき漫画だと思いました。

続編があるらしいけど、全ての要素を回収してほぼ完璧に終わってるので、これからどう展開するんだろうね。

蛇足なのか、そうでないのか。

また機会があったら読んでみたい・・・かも知れない。

でも、読まないかもしれない。

長くなったけど、以上だ。

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