2025年4月29日 12:12 CAT :
       

新緑の読書感想文「岬の兄弟」を見ての感想 4年ザクロ組 しもたろうに~後編

前回までのあらすじ。

と言う事で、引き続き「岬の兄弟」の感想を書いていきしょうかね。

この物語は本当に重要なファクターだけに焦点を当てて作られている。

ぶっちゃけ、兄妹2人以外の登場人物なんて、友人の「はじめくん」と小人症の男くらいしかいない。

後は全員モブだ。

そしてこの「はじめくん」こそが監督が最も訴えたかった事なんだと感じてしまった。

「はじめくん」は、普通の生活を営んでいる中年のおっさんで、なぜか主人公の良夫と仲良くしているし、真理子にも優しい。

でもね、何もしてあげないんだよ。

お金も貸してあげないし、生活について手助けしてあげる訳でもない。

しかも自分の常識を良夫たちに押し付けてくる。

妹に売春させてる良夫を激しく非難し、「お前は足が悪いんじゃない!頭が悪いんだ!」と罵倒する。

この「はじめくん」の言動とセリフって、完全にオレを含めたこの映画を鑑賞している人の視点だと思うんだ。

この映画を胸糞だと思ってるお前だ。お前。

この兄妹2人の生活を一切改善させることもできないくせに、一生懸命生きている2人に対して自分たちに常識と倫理観だけを無理やり押し付けて非難してるお前だ。

罵倒された果てに良夫がほぼ初めてはじめくんに声を荒げたセリフ「オメエみてえなやつを、偽善者っていうんだよ!」。

これこそが監督が一番言いたかったセリフなんだろうね。

オレの心にもぶっ刺さりましたよ。

良夫と真理子と言う本当にド底辺の生活をしてる2人。

頭も悪いし、多分教養もないんだと思う。

1人はカタワで、1人はキチガイ。

そんな2人が懸命に寄り添って生きているんだよ。

2人なりに一生懸命考えぬいて出した生き方に対して、手前勝手な倫理観で「胸糞」とか言ってるお前みたいな奴を世間では「偽善者って言うんだよ」って事でしょうね。

その証拠と言ってはなんだけど、作中の2人生活描写はなぜか至る所で美しいし、クスッと笑える。

本当に食べるものが無くなってしまい、ティッシュを食べる真理子に対して良夫が「何食べてるんだ?」と聞いて真理子が「甘いよ」と言うと、良夫もティッシュを食べて「ホントだ」って。

クスッとするし、何かチョッと朗らかになってしまう。

変なフィルターをかけず、状況を鑑みなければ、悲壮感もなく幸せそうな2人にすら見えるんだよ。

どんどん追い込まれて行って遂に絶望した良夫に対して真理子が自分が何よりも大切にしている貯金箱を差し出すシーンなんて、思い出しただけでも涙が溢れてくる。

真理子は自閉症だけど、多分良夫がやってる事が本当は良くない事だってことくらいは分かってたはず。

それでも、自分たちのために心を殺して今の生活を作ってくれている良夫の事が大好きだったんだと思う。

これねぇ・・・オレがこのブログでも何度も書いてる「ものの哀れ」なんだよ。

オレが最も美しいと思う情景だったんだよ。

真理子が良夫の作ったチラシを高台から投げ捨てて遊ぶシーンとか、チラシは妹を売春させる内容だし、やってる事は本当最低だけどメッチャ美しかった。

読み解ける予知を残したラストシーンも良かった。

振り向いた時の知性的な真理子の顔から分かるのは、真理子はキチガイなんかじゃない。

確かに自分の気持ちを整理するのは苦手だったかもしれないけど、全部分かってる。

分かった上で、大好きなお兄ちゃんと一緒に今の生活を続けるようと決めたんだよ。

あの最後の電話は物凄く希望的観測で見ると、元の職場の人からで、良夫が元の職場に就職出来て真理子が体を売らなくてよくなるみたいな事かも知れない。

でも多分あの電話は、売春のお客さんからだったと思うんだよなぁ。

そして、結局良夫は許諾して、その人のところに真理子を行かせた気がする。

最期の真理子の顔はその意味をすべて理解した表情だ。

真理子の役者さんの演技が素晴らし過ぎる。

作中真理子が泣き叫んだのは、小人症の男の家から出てきた良夫に対してと貯金箱を壊された時だけだったことに気が付いただろうか。

真理子は見知らぬ男に体を売らされる時、絶対に泣き叫んだりしなかった。

真理子が泣き叫ぶのは大切なものが無くなる時だけなんだよ。

じゃあ、小人症の男の所から出てきた良夫の前で泣き叫んだ時、真理子は何が無くなると思ったのか。

そんなもの良夫に決まってる。

「おしごとするからいっしょにいて」と言いたくて泣き叫んだんだよ。

みたいなことを考えた上で、もう一度この映画を見直して、それでも「このお兄ちゃんはクソだな」とか「胸糞悪い映画だ」と言う感想が出る人とはきっとオレは相容れないと思う。

長くなってしまったけど、この映画は決して胸糞映画ではないよ。

人が生きると言う事について凄く考えさせられる素晴らしい映画だった。

「胸糞映画だから見たくない」と敬遠してた人にこそ見てもらいたい。

「子宮に沈める」とか「誰も知らない」とかとは全然違う何度もみたくなる素敵な映画だと思う。

この真理子の表情が本当に最高ですよ。

「まだこの生活を続ける事が出来る安堵」とか「お兄ちゃんの為にこれからも体を売っていこうと言う決意」とか色んな感情が交じり合ってるんだと思う。

ラストまでずっと良い映画だったなぁ。

まだまだ出るぞぉ!

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