- 2020年9月2日 4:46 CAT :
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長々と語る事ばかりしか能のない老人の脳みそでもロボトミーはしない
独立してから5年が過ぎた…。
孤独のグルメの井之頭五郎に対して「あんな個人事務所みたいなところが、ポンポン大きな企業から仕事来る訳がない。そう言う所で覚めるんだ」と言う、随分的外れな感想を見かけたことがある。
オレも個人事務所だけれども、独立してからずっと右肩上がりに業績上がってる。正直、サラリーマンの時とは比べ物にならない位自由だし、お金も稼げているような気がする。
今なんて、上場企業さんとか、自治体さんからも色々なお仕事もらえたりしてる。こんな片田舎で、個人でやってるクソしょぼい事務所だと言うのに。
本当にありがたいことで、今のこの状況に対して、自分でも奇蹟だと思ってる。
そんな感じだから、そりゃあフィクションだと思う人も居るだろう。ただまぁ、そんな奴はせいぜい、現実世界の中でも覚めた目で、つまらん人生を歩んでいくがいいさ。
さてさて。
そんな話に少し繋がるかもしれないけれども、是枝監督の「そして父になる」と言う映画を見た。
いや、今しがた見終わった。
今の時間は午前4時。
もう寝ろよって話なんだけど、久々に心をグイグイ揺さぶられてしまったので、その事を書かずにはいられなかった次第でございます。
イヤね、天下の是枝監督だよ。ライムスター宇多丸さんが毎回絶賛する是枝監督だよ。
外れな訳がない。
これまで見た是枝映画は全て最高だった。
あと今回は比較的出演している俳優さんも有名どころが多く安定感抜群。
「万引き家族」の取り調べシーンの安藤さんや「誰も知らない」の柳楽君の笑顔のような、瞬間最大風速がとてつもない度肝を抜くような演技はあんまりなかった。けど、その分全編を通して安定したうまい演技。
是枝監督のカメラワークも演出も素晴らしい。
本当に引き込まれる。
心に刻み込まれるような印象的なシーンもたくさんあった。
何か、福山家族と、リリーフランキー家族の対比とか、見せ方もホント最高だった。(最初貧相で嫌な感じに見えるリリーフランキー家族が最後、物凄く良い家族に見える演出とかはホント天才的!!)
言い出したら、そういう話はたくさんできる。
でも今回心を揺さぶられたのは、そういう話じゃないんだよ。
絶賛、父親中のオレにとって、一番心を揺さぶられるのは「父親と子ども」の話なんだよ。
生まれてから一番泣いた映画は、多分「ライフイズビューティフル」だと思う。
「ライフイズビューティフル」は、ド直球の親子の美しさを描いて、そして結末もド直球。
だからこそ、素直に号泣するんだよ。
でも、この「そして父になる」はそんなド直球な物語じゃあない。そんな一筋縄ではいくはずもない。
この映画自体、是枝監督の倫理観とか、思想の押し付けとかがほとんどないと思う。
少なくとも表面上、面と向かって「ほら、こんな子ども可哀そうだろ?」とか「ほら、こんな生活ってしあわせだろ?」みたいな描写はない。
何が幸せで、何が不幸なのかと言う事も、本当の意味で客観的に突き放して描いている。
もののけ姫以降のキャラクターに没入させることを通して思想を押し付けようとする宮崎映画ではなくて、あくまでも客観的に徹底したリアリズムに見せる事で見る側の持つ思想とか倫理観をほじくり返そうとする高畑映画に近いものがあると思う。
それを通して考えさせられるのは、自分の今現在置かれている父親像だった。
オレの今の現状。
普段の生活はリリーフランキー家族に近いものがある。それこそ、毎日一日中子どもと一緒にいて、色んな事を体験しつつ一緒に成長してる感じがする。
でも、仕事が忙しくなると福山家族のように子どもと遊ぶ時間も無くなってしまい、ご飯の時くらいしか顔を合わさなくなる。子どもが寂しくて仕事部屋に入ってきても、ろくに相手にしない。
まさに、両方の親子関係の狭間にいるんだよ。
逆に言えば、オレの心持ち次第で、どちらの家族にもなる事が出来る。
だからこそ、尋常じゃなく揺さぶられてしまったんだと思う。
オレの人生観は、間違いなく娘が生まれた瞬間、ガラッと変わってしまった。
今でもまだ、娘が生まれた瞬間の事ははっきりと覚えている。
オレは、何があってもこの小さな命を守るんだ。って、直感的に決意した。
おそらくこの世の中のほとんどの親が、自分に子どもに対してそういう感情を持っている。(と言うか、そう願いたい)
この映画が提起する一番の問題は、その感情の持っていき方を改めて客観的に見てみませんか。と言う部分なんだと思う。
正直、娘も息子もどう考えてもオレの子どもなんだよ。
オレは他人の子どもに対してあんまりカワイイと思う感情を持ち合わせていないんだよ。
でも、自分の子どもに関しては、これはもう、本当にどうしようもないくらい可愛くて仕方がない。
そして、自分の子どもの頃にそっくり。まぢで笑ってしまう位。
もし映画同様に、「実はあなたの子どもではありませんでした」と言われても、福山雅治のように「やっぱりそうか」とは言わないだろうな。
「絶対嘘だろ!!!!」ってなると思う。
問題なのは、この映画が提起している話は、そうなった時あなたはどうしますか?と言う部分ではない事なんだよね。
それはあくまでも、問題を提起するための手段でしかない。
だからこそ、結末があんな感じなんだよ。
それはそれで良い。そんな話がしたいんじゃない。
オレは、自分の子ども達に対してどれだけ、向き合えているのか。と言う話なんだよ。
自分の気持ちの押し付けとかではなく、子どもの感情に対してだ。
作中で最も心に突き刺さったのは、作中で福山雅治が「僕にしか出来ない仕事なので、子どもより仕事を優先してます」的な事を言った後、作中ほとんど声を荒げないリリーフランキーが怒ったように言う「父親もあなたにしかできない仕事でしょう!!」と言う言葉。
今でも、絶対に忘れない体験がある。
娘が生まれて半年ほどしたとき、オレは一度心が折れかけたことがあった。
正直その時、オレは娘の事が謎の生き物のように思えてた。
当時サラリーマンだったけど、仕事が忙しくない時には、オレが娘をお風呂とかも入れてあげたりしてた。
その日は、仕事から早く帰ったから、オレが一人でお風呂に入れてあげたんだけど、娘が本当に大泣きした。
いつも泣き止むような事も全部試したけど、何をしても泣き続ける。
もちろんまだ言葉も喋れるわけない。首が座ったばかり位で一人で座ることも出来ない。
この当時、オレは、泣き始めたら嫁に渡して、おっぱい飲ませれば泣き止むとかそんな事を考えていたので、嫁を風呂場に呼んで娘を渡してしまおうと考えてた。
でもその日は、嫁が食後の洗い物をしてて、水道の音でオレの声が聞こえなかったのか、来てくれなかった。
本当に何をやってもズッと大泣きするこの得体のしれない生き物に対して、オレ自身もどうしようもなくて泣きそうになってた。
しばらくして嫁が娘の泣き声に気が付いて風呂場に来た時、多分、オレは虚ろな目で呆然として娘を抱っこしてたと思う。
オレは確か「もうオレ無理かも…」みたいなことを言った。
娘は、人一番怖がりでよく泣く。夜泣きも凄くて、寝かしつけても抱っこしてないとすぐ泣きだす。他人からも色々言われてたり、本当に色んな事があって、このお風呂の時にそれが溢れたんだと思う。このころ夫婦そろってビックリするほど寝不足だったし。
それに対して嫁は「この子の父親は一人しかいないんだから、しっかりしろ!!」と、珍しく強い口調でオレに言った。
あの時の言葉は、本当に強烈に心に突き刺さったんだよ。
あんな「何をしてもこの子はオレが守る」とか思ってたのに、いつの間にか、良く分からない生物と決めつけて、嫁に任せようとしてた事に気が付いた。
それ以降、オレは取り合えずどんなに困っても、自分の力で何とか出来るようにとにかく必死で娘と向き合った。
その結果かどうか分からないけど、子育てに関しては一通り全部できるし、一人で子どもの面倒見るとかも全然平気になった。
娘が泣いてる理由も、言葉分からなくても何となくわかるようになって、何をしても泣き止まないと言う事はなくなった。
今では、子ども達の心のブレに関してはある程度分かるようになった。いつも通りにしてても、「なんか悲しそうだな」とか「本当に楽しそうだな」とかが感覚的に分かる。で、話聞いてみると大体あってる。
そんなの当り前だと言われるかもしれないけど、情けない事にそれが出来る様になった事が凄い成長だと言う位、当時のオレはうんこ野郎だったんだよ。
リリーフランキーの言葉に、オレはこの時の自分の体験が凄く重なった気がした。
あの日からオレが決めてることは、子どもたちの気持ちに対して、絶対に(嫁であっても)人に任せないでちゃんと向き合うと言う事。
その事を改めて思い出さされた。
今のオレは、子どもたちとちゃんと向き合えてるんだろうか。
子育てって、結局答えが無いんだよね。あるのは、結果論だけ。
だから、自分が良いと思ったことをただ妄信的にやっていくしかない。
今、小学生になった娘は、寝室で抱っこすると「やめろ~~!!」って怒って暴れるけど、それでも絶対寝る時には「もう寝るよ。一緒にねべや(寝室の事)行こう。」と誘いに来てくれる。
それはあの夜、どうしても泣き止まなかった娘を嫁に投げ渡して「おっぱいあげといて」としなかった結果だと、今は信じてる。
ここ数日、本当に仕事が忙しくて、ご飯と寝る時くらいしか一緒に居れなかったけど、これはダメだな。とか思ってしまった。
・・・ダメだ。
物凄く長くなってしまった。
子育てに関しては、創作活動以上に色々と考えているんで、ついつい長くなってしまうな。
さて、では、かわいい子どもたちが寝ているベッドに行って抱っこしてくるか。
寝ている時なら、抵抗も出来まして。
本当に素晴らしい映画でした。
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